2021年09月14日

遠藤啓輔のコンサート日記(2021.09.12)

 今年も大阪クラシックの時期になった。初日の今日(2021.09.12)の夜は、大阪が誇る小規模ホール・中央公会堂中集会室(中之島)で大阪フィルハーモニー合唱団を聴く。演奏曲は初めて聴く曲ばかりだが、名伯楽・福島章恭の指揮が作品の魅力を見事に浮かび上がらせ、存分に楽しむことができた。

 1曲目は木下牧子の女声合唱曲『ロセッティの4つの歌』から「私が死んでも」「夏」「もう一度の春」。数年前に木下の個展をいずみホールで聴いたときは肉厚でシンフォニックな響きに感激したが、今日の作品は女声合唱ということもあって、また異なる彼女の魅力に触れられた。全体として響きが透明だが、そのぶんフレーズを締めくくる和声の色合いが印象的になり、それらが少しずつ変化していく様相に魅せられる。ベーゼンドルファーのピアノを使った小林千恵の伴奏が柔らかな音色で響きにきらめきを添えているのも印象深い。そして、ヘミオラのリズムが奔流のような推進力を生み出していた。木下牧子にこれからも注目したい。

 2曲目は伴奏を電子オルガンに換えて、ラインベルガーのレクイエムd-moll。ロマン派の作曲家らしく、息が長く感情豊かな旋律が魅力的な作品だが、福島の指揮はこの曲に込められた繊細な魅力をさらに明晰に浮かび上がらせる。全曲のほぼ中央に位置する「サンクトゥス」の神聖な響きが静謐な山場となるが、対してその前後の楽章はソリスト的役割を果たす各声部のトップが人間味豊かに歌うことで、「神聖さ」と「人間味」が対比された。そのほかにも、沈痛で緊張感の高い部分とやや緊張を緩めた温かみのある部分が対置されるなど、真摯なカラーで統一された感のある宗教音楽の中に程好い変化があり、ロマン派的な音楽のうねりに力を加えていた。

 最後は小林が再びピアノの席に戻って、三善晃が編曲した唱歌集。日本の小学校で音楽の授業を受けた者であれば誰でも知っている歌ばかりだが、これを三善が大胆に編曲して驚くべき合唱曲へと変貌させていた。堂々たるピアノ伴奏に導かれた『朧月夜』は、「菜の花ばたけに入日薄れ~」で始まる1番全体を、なんと男声だけで演奏。当然、その後は女声だけで長大なフレーズを歌う部分も有り、トータルとして女声と男声を大胆に対比させ、ソロイスティックに独自の動きをするピアノと相まって豪快な音空間を作り出した。中でも感銘を受けたのは『雪』。ピアノのキラキラした動きがまさに雪のきらめきのようだが、圧巻は終盤の「犬は喜び庭駆け回り、猫はコタツで丸くなる」の部分だ。歌詞に動物のイメージが挿入されたことを受けてか、ピアノが今度はラプソディーのように暴れ出し、交響曲におけるスケルツォ楽章のような諧謔曲的役割を果たしていたのだ。それに続く『夕焼け小焼け』は、声のブレンドが色彩のグラデーションを描き、堂々たる終曲となっていた。そしてここでも、やはりピアノの動きに感動。終盤、声楽が大空を雄大に描いていたのに、ピアノが突然それとは全く異なるキラキラした動きをし出してビックリさせられる。すると歌詞が「空にはキラキラ金の星」となったのだ。歌詞をピアノの動きが先取りしていたのである。
posted by かぶと at 19:46| Comment(0) | 遠藤啓輔のコンサート日記 | 更新情報をチェックする