2021年08月04日

遠藤啓輔のコンサート日記(2021.07.29)

 大友直人の指揮で、大阪交響楽団がブルックナーの交響曲第5番を演奏(2021.07.29。シンフォニー・ホール)。

 大友と言えば、シベリウスから力みの無い爽快な音を引き出すことに長けた指揮者という印象があるが、そうした大友の個性を反映した速めのテンポ設定。ブルックナーを速いテンポで演奏すると、複雑なポリフォニーの解析に無理が出て冗談音楽のように聞こえてしまうという危険性を伴う一方、旋律のつながりが良く分かってブルックナーの歌の魅力に気付かされるという美点がある。今日の大友の演奏も、構築的な印象が強いこの曲の、歌の魅力を再認識させるものだった。

 第1楽章は特に第2主題部で、弦のピッツィカートが、強弱が雄弁につけられていたこともあって、伴奏であるにもかかわらず抑揚のある歌のように聞こえた。

 第2楽章は何と言っても雄渾な第2主題が、感情が途切れずに湧き出して来るかのような迫力がある。そしてクライマックスの十字架を描く四分音符の連続(I以降)に、歌としての流れがある。この箇所は、一音一音にインパクトを持たせて打ち込む演奏も迫力があるが、今日のような温かく歌う演奏もまた格別な魅力がある。

 一小節一つ振りで指揮したスケルツォは、レントラー風の舞曲の躍動感が出ていた。これには名手・細田昌宏率いるホルンの吹奏が雄弁だったことも大いに寄与している。基本テンポ設定がそもそも速いのに、さらに加速もしっかりつけていたので、楽章全体を通して動的な迫力があった。特徴的だったのはトリオの基本テンポも相当速かったこと。5番のトリオは田園情緒があふれる印象があるが、こうして速いテンポで演奏すると、9番のトリオのように情緒と前衛が混然一体となった不思議な音楽のように聞こえてくる。

 フィナーレでも速めのテンポ設定が効果を発揮。1回目のフーガ(A以降)では、次々と主題が沸き上がってくるフーガならではの興奮があった。そして金管による2回目のフーガ主題の提示(H)は、一音一音のインパクトよりも旋律線としてのつながりを重視した吹奏で、これがコラールという歌であることを再認識させられた。コーダでも、中心となる主題がしっかりと強調され、それらが連結されることで太い歌の流れが作られていた。

 このように速めのテンポ設定を活かした演奏であったが、メロディーの歌い方自体はテヌートを重視した濃厚なもので、サラサラと流れ去ってしまうような頼りない演奏になっていなかったところが良い。米川さやか率いる第2ヴァイオリンが主旋律とは異なる動きを雄弁に弾いていたこともあって、音響の密度も高かった。トータルとして、頼り甲斐のあるブルックナーの響きを実現しつつ、ともすれば忘れられがちになるブルックナーの歌謡的な魅力を前面に出した、独創的な5番の演奏になっていた。
posted by かぶと at 19:45| Comment(0) | 遠藤啓輔のコンサート日記 | 更新情報をチェックする